5 具体的態様と中心傾性

特徴的な具体的態様に基づく類似範囲は、その具体的態様がプロトタイプ(典型例)として類似範囲の中心に位置している。そして具体的態様に基づく類似範囲は中心傾性を有しているため、その類似範囲は円盤状になると言える。ここで、B/6/4「具体的態様に基づく類似範囲」の図3の例で説明した登録意匠の類似範囲についてこの中心傾性を考えてみよう。登録意匠の特徴的な具体的態様に基づく類似範囲には、図1に示すようなバリエーション1、2が含まれる。


図1

登録意匠のプロポーションは、この類似範囲における典型例である。バリエーション1は登録意匠よりも背が高いプロポーションを有し、また、バリエーション2は登録意匠よりも背の低いプロポーションを有している。しかし、バリエーション1と2のプロポーションは、公知意匠1に見られる背が高いプロポーションや公知意匠3に見られる幅広いプロポーションとは異なり、登録意匠のプロポーションと近似する視覚的効果を有している。


図2

図2に示すように、バリエーション1と2のプロポーションによる視覚的効果は、登録意匠のプロポーションによる視覚的効果よりも低くなる。登録意匠のプロポーションは典型例であり、バリエーション1と2のプロポーションは、その典型例から外れているためである。図4は、登録意匠(赤点)のプロポーションという具体的態様に基づく類似範囲(赤円)、バリエーション1(青点)、バリエーション2(緑点)を示し、「H」は登録意匠のプロポーションの視覚的効果の高さ、「H1」はバリエーション1のプロポーションの視覚的効果の高さ、「H2」はバリエーション2のプロポーションの視覚的効果の高さを示している。

プロトタイプ理論は、概念が典型例を中心に体制化されているとするため、登録意匠のプロポーションが中心に位置した場合、その他のバリエーションモデルのプロポーションによる視覚的効果は必ず登録意匠のプロポーションによる視覚的効果よりも小さくなるのである。バリエーション1、2の他に、多数のバリエーションを想定すると、それらバリエーションの視覚的効果の高さは、登録意匠の位置を中心にして円錐状に分布することが理解できよう。これが具体的態様における中心傾性である。

(2008/1/8)

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