1 面と視覚

「見る」ということは、自分の周囲の状況を視覚として検出することであると思われているが、自分自身の状態を知ることも視覚の重要な役割である。視覚研究の第一人者であるJ.J.ギブソンは生態学的視覚論という本(1)の中で、視覚というものは視点が動くことを前提にしていることを述べている。例えば、落ちれば死ぬであろう崖ぶち(2)へ向かって、歩きながら接近する場合、現在歩いている地面は、自分の方に向かってたぐりこまれるように見え、また、崖ぶちの下の地面は崖ぶちを起点として自分の方に向かって立ち上がってくるように見えるのを観察できる。

もちろん、この場合、自分の足が動いているという情報が脳にあるから、地面が動いていると誤解することはない。このように単にそこに崖ぶちがあるという情報よりも、動物にとっては、その崖ぶちに向かって「自分が近づいている」ということが視覚の情報として有効な情報である。

ギブソンは、また、動物は地面という「面」から離れて生活することができないし、あらゆる物体は面を備えているから、面がどのように見えているかということが視覚において重要な関心事であることも指摘している。

このように、人間(動物)と視覚の対象となっている面との結びつきは切っても切れない関係にある。すなわち、物体の形態を視覚がどのように捉えているかということを考える場合、「面」の存在を最も重要な情報として扱っている。

(1)J.J.ギブソン著/古崎敬・古崎愛子・辻敬一郎・村瀬旻共訳「ギブソン生態学的視覚論」(サイエンス社、1985年)
(2)ギブソン前掲(1)39頁

(2008/1/4)

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