5 公知意匠が存在する場合(2)

さらに、複数の公知意匠が存在する場合を考えてみよう。図1は、登録意匠の出願前に公知となっている架空の公知意匠1、公知意匠2、公知意匠3を示している。


図1

この場合、登録意匠の基本的構成態様である「三者一体とした形状」は、3つの公知意匠にも見ることができるため、ありふれている。「ありふれている」という言葉は、意匠の実務で一般的に使用されている言葉であり、「新規性」とは異なる概念である。「新規性」は一つでも公知資料があれば失われるが、「ありふれている」状態というのは、一つの公知資料だけでは認定できない。いくつの公知意匠が存在すれば「ありふれた」状態となるのかは不明であるが、少なくとも3つの公知意匠が必要であると考えている。

図1の例において、登録意匠の基本的構成態様はありふれており、登録意匠のみに見られる特徴的な形態要素ではない。したがって、登録意匠の特徴的な形態要素は、基本的構成態様以外の形態要素となる。この特徴的な形態要素は具体的態様と呼ばれており、公知意匠との対比において把握される。

この例において、3つの公知意匠と登録意匠を比較した場合、公知意匠1と登録意匠の全体の縦横比、3つの各箱の高さ(深浅)は近似している。したがって、登録意匠のプロポーション(全体や各部分のバランス)に特徴があるとは言いがたい。一方、登録意匠の3つの各箱は平坦面で構成されており、この各箱の面形状は3つの公知意匠には見られないものである。したがって、登録意匠の具体的態様となる形態要素は、「三者一体とした形状」という基本的構成態様を前提とした上で、3つの各箱が平坦面で構成されていることにある。しかし、このような登録意匠の具体的態様をイ号意匠は備えていないため、登録意匠の類似範囲にイ号意匠は属していないということになる。

(2008/1/2)

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