6 具体的態様による相対的な美感

美感には、絶対的な美感と相対的な美感の二種類が存在する。絶対的な美感とは、比較を前提としないため、個人的な評価に終始する。ある昆虫を見たときに、ある人は美しいと評価し、他の人は醜いと感じる。これが絶対的な美感である。意匠制度で問題にしている美感は、このような個人の感性に基づく絶対的な美感ではない。また、そのような美感を評価する世界に法律は踏み込むべきではない。

相対的な美感とは、両意匠の比較を前提とする。両意匠は、共に、同じ基本的構成態様を備えていなければならない。基本的構成態様が共通していなければ、形態の評価に関して比較を行うことは不可能だからである。

この相対的な美感は、必ずしも「シャープな印象」「鈍重な印象」などの言葉であらわされる必要はないが、美感の評価は想像以上に十分な構造化を受けているため、普遍性を持つ。例えば、2つの尖った形状のものを比較する場合において、一方が他方よりも鋭い形状である場合、鋭い形状のものから鈍重な印象を受けると評価することは不可能である。この意味において、相対的な美感とは感情に支配されないものである。従って、相対的な美感とは、具体的な複数の形態を比較することにより得られる相対的な視覚的効果であると定義できる。

基本的構成態様は、美感とは無縁の存在である。基本的構成態様は様々な具体的態様を含んでいる。様々な具体的態様は、それぞれ異なる美感を有している。それらを全て統合し平均化することができれば基本的構成態様に由来する美感と呼べるのかもしれないが、全ての具体的態様を表現し尽くすということは不可能である。基本的構成態様と他の基本的構成態様を比較しようとしている場合、その基本的構成態様はすでに具体的態様の次元まで具体化されていることに気付かなければならない。

(2008/1/8)

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