6 基本的構成態様のグレーゾーン

2つの意匠の基本的構成態様は、原則として一致するか、しないかという二者択一の関係になる。しかし、上述してきた基本的構成態様の捉え方は、古典的概念学説と同様の弱点を備えている。即ち、不明瞭なケースが存在するのである(1)。例えば、古典的な大型ラジオをも含むラジオは、家具という概念に属するのかどうか不明である。基本的構成態様が台地状であるとしたのは、台地の周縁に斜面があることを指摘するためである。上述した基本的構成態様の分布範囲の斜面は、基本的構成態様が一致するのかしないのか不明であるグレーゾーンを示している。

類似するのか類似しないのかが、はっきりしない領域があることを認めることは、従来の学説ではタブーであった。何故なら、独占排他権である意匠権が及ぶ範囲にグレーゾーンがあれば、意匠制度そのものの正当性が疑われるからである。

しかし、グレーゾーンを認めても問題はない。意匠法の条文には「類似するかどうかを判断せよ」と記載されているが「非類似かどうかを判断せよ」とは記載されていない。なぜ、そのように記載されているのかといえば、これは立法技術の問題ではなく、必然的そういう記載にならざるを得ないのである。後述する完全性説によれば、類似範囲が「同価値の範囲」に対応すると考えるため、グレーゾーンに類似範囲を認める必要がないからである。

このため、我々は明らかに台地の上面に含まれている形態を「類似」と判断し、台地の斜面のグレーゾーンにあると考える場合には、「類似しない」と判断すればよい。即ち、「類似しない」とは、「類似するかどうか判断できないグレーゾーン」と「非類似」の両者を含む。「類似すること」の反対が「非類似であること」とする考え方は誤りである。

基本的構成態様の一致が問題となる意匠権侵害訴訟の場合、その被告は、非類似という心証を裁判官に抱かせることに成功する必要はなく、少なくとも基本的構成態様が一致しているかどうか分からない等の理由から、類似とは断言できないという心証を形成させることで充分であることが理解できる。

(1) M.W.アイゼンク編/A.エリス・E.ハント・P.ジョンソン−レアード編集顧問/野島久雄・重野純・半田智久訳「認知心理学事典」(新曜社、1998年)37頁

(2008/1/4)

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