6 中心傾性を持たないということ

上述したように、事例の数がある程度存在しなければ、プロトタイプを認めることができない。プロトタイプが認められない状態における形態の認知構造を考えると、そこには中心傾性が存在しないことが理解できる。

中心傾性を持たない概念を説明するものとして上述した古典的概念学説が参考になる。この古典的概念学説は、定義的特徴により概念が決定されるとする。形態の認知においてもこのような捉え方を行うことはできるのではないか。そして、形態の特徴を定義するもの、それが基本的構成態様の実体なのではないだろうか。

中心傾性を持たない構造は、非常に想像しにくい。この構造によれば、新規物品の登録意匠は、必ずしも類似範囲の中央に位置しない、ということになる。それは典型例ではないからである。そして、このような類似範囲は、上述した類似の円盤とは異なる構造になるということであるから、従来、当然と考えられていたプロトタイプの単独単一構造では説明できないことになる。もっとも重要なことは、意匠図面に示されている形態が「その意匠の典型例ではない」という点である。

新規物品の形態の定義と呼べるもの、即ち、基本的構成態様が共通する範囲が類似範囲を画していると考えるのであれば、新規物品の類似範囲が広いという上記の指摘を説明できる。

(2008/1/4)

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