1 意匠の要部に関する諸説

従来の意匠の類否判断では、意匠の要部の認定が鍵になってきた。この意匠の要部を定める基準について、形態性要部基準説と創作性基準説が存在する。(1)

形態性要部基準説は「意匠の要部は当該意匠の属する分野の経験則によって導き出される。」とする考え方であり、旧法時代から現行法に引き続き数多くみることができ、また、特許庁の実務上の解釈における一貫した基本的態度でもあるとされている。しかし、この説は、証明が極めて困難な「経験則」という概念を持ち出すため、クライアントから論理的な説明を求められる場合等では、役に立たないことが多い。また、その論理性の欠如故に、学説と呼ぶには抵抗を感じる。

創作性基準説は、創作性説の論理的帰結であり、「創作の実質的内容を先行資料により画定し、対比する意匠がその範囲に包摂されるかどうかによって類否を決する。」という考え方である。多くの侵害事件がこの判断構造を採るとされている。この説は、先行資料が存在しない新規な形態要素を意匠の要部として認定できるため、実務においては論理的で明解な説明が可能であり、クライアントにも理解させやすいというメリットがある。上記の裁判例も、この創作性基準説による論理展開が行われ、意匠の要部が認定されている。

ところで、上述したように創作性基準説は、意匠法の法目的に関する学説である創作性説の論理的帰結とされている。しかし、創作性説と対立する混同説が上記の形態性要部基準説と結びつくのかというと、そうではない。即ち、形態性要部基準説は、通説・判例とされているにもかかわらず、法目的の議論とは関連性を持たずに存在している。このことは、実務における意匠の類否判断には、法目的の議論がほとんど無意味であることを意味している。

(1)斎藤暸二著「意匠法概説」(有斐閣、1995)152頁〜197頁。形態性要部基準説と創作性基準説に関する説明も斎藤氏の分析による。

(2008/1/4)

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