9 具体的態様に基づく類似範囲

上述したように、A意匠の形態(以下、A形態)にB意匠の形態(以下、B形態)が類似する場合には、@A形態の基本的構成態様が新規であり、A形態の基本的構成態様をB形態が備えている場合と、AA形態の基本的構成態様がありふれていると共にA形態の具体的態様が斬新であり、A形態の基本的構成態様とその具体的態様をB形態が備えている場合、の2つのパターンしかない。

@のA意匠の基本的構成態様が新規である場合は、AのA意匠の具体的態様が斬新である場合よりもA意匠の類似範囲は広い。では、Aの具体的態様に基づく類似範囲というものはどのようなものであろうか。図1に示すような4つの公知意匠、登録意匠、イ号意匠が存在する場合を考えてみよう。なお、4つの公知意匠は、登録意匠の出願前に公知になっている意匠である。


図1

4つの公知意匠と登録意匠を比較すると、登録意匠の「三者一体とした形状」という基本的構成態様はありふれており、一方、基本的構成態様以外の形態要素の中で特徴的な形態要素は2つある。1つ目は、公知意匠1と2が背が高いプロポーション、また、公知意匠3と4が幅広いプロポーションを有しているのに対し、登録意匠はそれらプロポーション群の中間とも言えるプロポーションを有している点である。2つ目は、公知意匠1〜4の各箱の面に穴が開いていたり網状となっていたりするのに対し、登録意匠の各箱の面は平坦状となっている点である。これら2つの形態要素はそれぞれ登録意匠の特徴である。即ち、具体的態様であると認定できる。

このように登録意匠の具体的態様は2つあるわけだが、イ号意匠は登録意匠と同様のプロポーションを有しているため、登録意匠に類似する。上述したように形態要素は意匠の形態の「要件」や「条件」ではないからである。これを概念図で示すと図2のようになる。


図2

プロポーションに関する具体的態様(赤い点)に基づく類似範囲(赤い円)にイ号意匠(黒い点)が属している。そして、各箱の面形状に関する具体的態様(青い点)に基づく類似範囲(青い点)にはイ号意匠は属していない。具体的態様に基づく類似範囲は、このように具体的態様の数だけ存在するととらえた方が考えやすい。

(2008/1/3)

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