7 類似の観点

ここで、「類似」という概念を少し掘り下げてみよう。類似とは、複数の対象を比較した場合に、それら対象が似ていることを言う。似ているかどうかという判断を行うにあたり、最も大切なことは「類似の観点」を考えることにある。例えば、A氏とB氏が似ているか、ということについてX氏とY氏が話し合ったとしよう。X氏は「A氏とB氏は顔が似ているから両氏は似ている」と主張する。しかし、Y氏は「A氏は温厚であるがB氏は怒りっぽいので全く似ていない。」と主張する。このようにX氏とY氏の目の付け所が異なるために結論が正反対になっているのが分かる。目の付け所、即ち、「類似の観点」が異なると結論は正反対になる場合がある。

類似の観点が異なることによって類否判断の結論が異なる場合には、「いずれの類似の観点を採用すべきなのか」という新たな問題が生じる。即ち、A氏とB氏が似ているかという類否判断は、顔が似ているのか(X氏の観点)、性格が似ているのか(Y氏の観点)といういずれの類似の観点を基準にして判断すべきなのかという議論が必要となる。もし、この議論を「顔の類似性」について行わなければならない場合にはX氏の結論(A氏とB氏の顔は似ている)が正当であり、Y氏の結論(A氏とB氏の性格は似ていない)は全く誤っていることになる。

上記の議論ではX氏が勝利しているが、ここで注意しなければならないのは「顔が似ている」「顔が似ていない」という肝心の評価が全くなされていない点である。このように「いずれの類似の観点を採用すべきなのか」という議論は、「顔が似ている」「顔が似ていない」という評価と同等の重要性を持つことがある。

意匠の類否判断の作業では「このケースにおいて問題にしなければならないのは、どのような類似の観点なのか」ということを常に意識していなければならない。類否判断の作業中には様々な類似の観点が浮上し、一つの類似の観点が他の類似の観点を覆い隠そうとする。そのような様々な類似の観点の中から、そのケースにおいて最も適切な類似の観点をしっかりと把握しなければならない。

そして、その類似の観点を採用する理由を理論的に説明することが重要である。「いずれの類似の観点を採用すべきなのか」という議論は、「似ている」「似ていない」という評価よりも理論に馴染みやすく、そうした意味において非常に強い説得力を持つ。意匠の実務においては、その類似の観点を採用した理由をきちんと説明した上で、その類似の観点に基づいて「似ている」「似ていない」という評価を詳細に説明する能力が求められる。

(2008/1/3)

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