4 公知意匠が存在する場合(1)

ここでもう一度登録意匠とイ号意匠とを見比べてみよう。図1に示すように、全体の構成、即ち、「上部に脱衣籠を備えた本体に2個の洗濯籠を並列載置して三者一体とした形状」は共通している。しかし、登録意匠の各箱は平坦面によって構成されており、イ号意匠の各箱は網状(メッシュ状)の面によって構成されている点が大きく異なる。


図1(左が登録意匠の正面図、右がイ号意匠の正面図)

登録意匠の形態要素において、「三者一体とした形状」は基本的構成態様であり、「各箱は平坦面で構成されていること」は具体的態様である。イ号意匠は登録意匠のこの具体的態様を備えていないにもかかわらず、登録意匠の類似範囲に属していると判断されたのである。即ち、各箱の面形状の差異は、意匠の類否判断に対して影響を与えることができなかったのである。

それでは、登録意匠の「三者一体とした形状」という基本的構成態様が新規ではない場合を考えてみよう。図2は、図1に示す両意匠を簡略化し、さらに架空の公知意匠を加えたものである。


図2

公知意匠は、登録意匠の出願前に公知となっている意匠である。この意匠は、「三者一体とした形状」という基本的構成態様を備えている。このような公知意匠がある場合、被告は、公知意匠の存在を理由として登録意匠の意匠登録無効審判を請求することができる。即ち、公知意匠の類似範囲に登録意匠が属しているため、登録意匠は新規性を有していないからである。ちょうど、裁判例における登録意匠とイ号意匠の関係が、公知意匠と登録意匠の関係にスライドして適用することができるからである。

(2008/1/2)

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