1 実務における類否判断の手法

実務で行われている意匠の類否判断の手法について説明する。
まず、この類否判断は以下のような手順で行われてきた。

(1)両意匠の物品が同一又は類似するかを判断する。
(2)登録意匠の形態を分析し形態要素を箇条書きにしてゆく。
(3)登録意匠の特徴的な要素(意匠の要部)を把握する。
(4)イ号意匠の形態を分析する。そして登録意匠と比較し共通点と差異点とを明確にする。
(5)共通点や差異点を意匠の要部の観点から検討し、両意匠の類否を最終的に判断する。

このような意匠の類否判断の手法は一例であり、他の手法も存在する。類否判断の手法に決まったやり方がある訳ではない。しかし、その他の手法によっても両意匠を分析しその形態の要素を箇条書きにしてゆき、共通点と差異点を考慮して判断する点では変わらない。そして、特徴的な要素が共通するのであれば、両意匠が類似すると判断している。

ここで乱れ箱事件(大阪地裁昭和56(ワ)4926号、昭和59年2月28日判決)を例にとり実務的アプローチを紹介する。私がこの事件を好んでとりあげるのは、この裁判例が登録意匠の類似範囲を広く認定しているためである。意匠の類似範囲を広く認定することは通常困難を伴う。何故なら、些細な差異点に注目して両意匠が非類似であると結論することは幼児にでも可能であり、また強い説得力を持つ。しかし、それでは意匠の本質を見落としてしまい、優れた意匠に十分な保護を与えることはできない。

この事件は意匠権侵害訴訟であり、登録意匠は図1、イ号意匠は図2に示される(1)。裁判所はイ号意匠が登録意匠の類似範囲に属していると判断した。即ち、両意匠は類似であると結論したのである。まずは、じっくり見比べていただきたい。



図1(登録意匠)




図2(イ号意匠)

(1)牛木理一著「判例意匠権侵害」(発明協会、1993)241頁〜248頁

(2007/12/30)

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