8 部分意匠間の類否判断

上述した部分意匠の類否判断の考え方は、部分意匠と他の部分意匠との類否判断を行う場合に非常に明快な判断指針を与えることができる。以下、図1に示す部分意匠の本意匠について図2〜図4に示す3つの関連意匠が登録された例を検討する。なお、この本意匠及び3つの関連意匠の登録は、特許庁が要部説の考え方に従って部分意匠の位置、大きさ、範囲について厳格に判断していた頃の登録例である。

図1 意匠登録1081988

この一連の部分意匠は意匠権者であるSONY社のジョグダイアルに関するものである。このジョグダイアルは電子操作部を構成しており、ジョグダイアル部分の側方に露出している円盤状のホイールを指先で回転させて操作する。このため、このジョグダイアルが装着される装置はノート型パソコンだけではなく、他の電子機器、例えば、デスクトップ型パソコンのキーボード、テレビゲーム機、車載用ナビゲーション装置等にも使用することができる。このことからこのジョグダイアルの部分意匠は部分完結型であり、故にその揺動範囲は非常に広いことになる。但し、現行の意匠法は意匠に係る物品の欄に全体意匠の物品名称を記載することを求めているため、この揺動範囲は「電子計算機」に限定される。

図2 関連意匠登録1082583



図3 関連意匠登録1082584



図4 関連意匠登録1082585

3つの関連意匠が登録されていることから、特許庁はこの3つの関連意匠が本意匠に類似すると判断している。なお、図1に示す本意匠及び図2〜図4に示す3つの関連意匠の実線部分は同一形態である(図5参照)。

図5

揺動説による部分意匠の類否判断に従うと、最初に部分意匠の分類認定が行われ、本意匠は部分完結型であると認定される。次に、部分完結型であることから揺動範囲はきわめて広いと認定され、ノートパソコンのどのような位置に取り付けられていても揺動範囲に含まれると判断される。従って、本意匠と3つの関連意匠との間には共通性が認められ、本意匠の実線部分の形態は3つの関連意匠に対して適合可能性が認められる。以上の判断において同一、類似、非類似という概念を用いることはできない。

そして適合可能性が認められると、ここで初めて実線部分の形態に関する類否判断が行われる。この類否判断において本意匠と3つの関連意匠の実線部分が比較される。これらの実線部分の形態は同一であるため、3つの関連意匠は本意匠と同一意匠と判断される。従って、揺動説によれば、この3つの関連意匠は関連意匠の登録要件(意匠法10条1項)を満たしておらず意匠登録を受けられないという結論になる。

上記の結論は、破線部分における共通性(適合可能性)の判断と、実線部分の形態の類否判断とを峻別する揺動説から導かれる。このため、独立説を採った場合でも、破線部分における共通性(適合可能性)の判断を行わないのであれば、上記本意匠と3つの関連意匠は類似するという結論になる可能性が高い。また、タイプ別部分意匠類否論もその論文(1)の中で本件の本意匠と3つの関連意匠は類似関係にあるとの説明を行っている。このように独立説やタイプ別部分意匠類否論の最大の問題点は破線部分の法的な意味合いを説明できていない点にある。

なお、このような関連意匠の登録は上記のような法律上の問題があるものの、実務上は揺動範囲を明確にするために非常に有用である。制度論としては、関連意匠として登録するのではなく、一つの出願の中で(即ち本意匠とされている一つの出願の中で)これら3つの関連意匠の図面を例示的に表示できるようにすることが望ましい。

(1) 青木博通「タイプ別部分意匠類否論」DESIGN PROTECT誌2001年No.50Vol.14-3

(2006/2/15)


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