4 特許庁の立場

日本国特許庁は、部分意匠制度の導入当時において要部説の立場に立っていると言われていた。詳しくは後述するが、破線部分に基づいて実線部分の位置、大きさ、範囲を認定して、その位置、大きさ、範囲が相違する場合には、部分意匠に類似しないという立場を採っていた。この考え方は、破線部分を重視した考え方である要部説と同様である。

ところで、この「位置、大きさ、範囲」という言葉は、部分意匠制度導入当時の特許庁意匠課課長により発案されたものであり、法理論や部分意匠制度の沿革を根拠とした概念ではない。

その後、特許庁は2004年2月16日に更新された特許庁のHPの「部分意匠に関するQ&A」において上記立場の変更を発表した。その内容は以下の通りである。

【問13】 実線部分の「位置、大きさ、範囲」が少しでも異なると非類似となるのですか?
【答】位置、大きさ、範囲は、当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであればほとんど影響を与えない、と考えられています(審査基準71.4.2.2.1(5)参照)。

【問14】 「その他の部分」は、類否判断の際にどのように取り扱われますか?
【答】 まず、審査官は、例えば、実線で描かれた「意匠登録を受けようとする部分」と破線で描かれた「その他の部分」とを、当該【意匠に係る物品】を認識するための基礎としています。次に、破線で描かれた「その他の部分」に基づいて、「意匠登録を受けようとする部分」の「位置、大きさ、範囲」を認定しています。ただし、「その他の部分」の形態のみについては対比の対象としませんので、ほとんどの場合、「その他の部分」の形態の相違が類否判断に直接影響を与えることはありません(審査基準71.4.2.2.1(5)参照)。

このような「位置、大きさ、範囲は、当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであればほとんど影響を与えない」、あるいは「破線部分の形態のみについては対比の対象としないため、ほとんどの場合、破線部分の形態の相違が類否判断に直接影響を与えることはない」という特許庁の新しい立場は、米国の独立説の考え方をベースとしつつも部分意匠の様々な類型に応じて柔軟な対応を行う方針であることを伺わせる。

(2006/2/10)


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