2 要部説と独立説の検討

理論上において要部説と独立説の何れが妥当であろうか。

要部説は、「独立して取引の対象となる物品にのみ意匠が成立し物品の部分には成立しない」という旧来の考え方を前提としている。従って、物品の部分をも対象とする改正意匠法第2条の意匠の定義規定と相容れない。これは、要部説が条文上の解釈において抱えている問題点である。この指摘に対しては、「意匠に係る物品」の欄に部分意匠が含まれている全体物品の名称の記載を意匠法の規定が求めていることから、これは要部説の「全体意匠をベースとして部分意匠を捉えてゆくべきである」という考え方を肯定している規定であるという要部説側からの反論が可能である。

実務においては、要部説を採ると破線部分を重視するために破線と実線の取扱に混乱が生じるおそれがある。破線部分と実線部分の何れを重視すべきなのかという点が判然としないからである。また、破線部分を重視した場合には、肝心な実線部分の類否判断のウェイトが弱められてしまい、部分意匠の保護範囲が実質的に狭くなってしまうという問題点がある。

また、要部説を採る場合には「意匠の要部」を出願人サイドで任意に決定できるような誤解を生じ、従来の類否判断の手法等に混乱が生じると考える。「意匠の要部」とは特許庁や裁判所において客観的に判断されるものであり、これを出願人サイドで決定できるものではないからである。意匠の類否判断の実務に用いられている「意匠の要部」という概念は、出願時に当該分野の経験則から意匠を構成する形態要素の本質的な部分を要部とする形態性要部基準説(1)により認定される。他方、この要部説にいう「要部」とは、出願人が実線により任意に示す主観的な部分に過ぎず、上記形態性要部基準説に言う「意匠の要部」とは区別されなければならない。

このように、要部説という名称に含まれている「要部」という言葉は、日本国の「意匠の要部」という概念とは一致しない。あえて要部説にいう「要部」という言葉を説明するならば、破線部分を意匠の要部と主張する権利者に対しこれを禁反言として取り扱う概念ということになろう。

一方、独立説では、日本国判例で積み上げられてきた意匠の要部という概念を用いた類否判断の手法を全体から部分へある程度スライドさせて適用することが可能であるという利点がある。即ち、部分意匠を示している実線部分からのみ意匠を特定し、この実線部分で示されている部分の共通点や差異点を検討し、意匠の類否判断において行われてきた従来の手法を用いて部分意匠の類否判断を行うことができる。

(1)斉藤瞭二「意匠法概説(補訂版)」(有斐閣、1995年)159頁

(2006/2/10)

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