1 要部説と独立説

部分意匠を保護対象としている米国では要部説と独立説が存在する。要部説は「意匠は物品の部分には成立しない」という従来の考え方を維持し、実線部分が意匠の要部であり破線部分は要部ではない部分として捉え審査等を行うという考え方である(Blum判決)。

この要部説は、出願人が引用された公知意匠と出願に係る意匠とを明確に区別するため、この公知意匠に含まれる部分を破線により示すことにより、破線部分の形態から意匠の要部を認定することを積極的に排除する方法として考え出されたという背景を有する。

なお、要部説は「実線部分が意匠の要部である」と主張している説ではなく、「破線部分から意匠の要部を抽出してはならない」というのが要部説の本来の主張である。即ち、意匠の要部の認定において「破線部分の形態から意匠の要部を認定してはならない」という要部認定の積極的排除を主張している考え方である。

しかし、要部説は、その説の名称から「実線部分が意匠の要部である」と主張しているかのように誤解されている。けれども、「破線部分から意匠の要部を抽出してはならない」と主張は、実質的に「実線部分が意匠の要部である」という結論に結びついてしまうため、「要部説は実線部分が意匠の要部であると主張している説である」と説明しても明らかな誤りではない。

一方、独立説は、実線部分を権利主張(クレーム)の対象とし、破線部分は「説明目的」でありクレームの範囲には含まれないとする考え方である(Zahn判決)。独立説は、パテントアプローチにより意匠を保護する米国では、馴染み易い考え方である。即ち、実線で示す範囲は出願人が任意に決定できる点を捉え、クレーム概念で説明するものである。また、「経験則という客観的観点から決定する」手法を採る日本国での「意匠の要部」という考え方とも親和性がある。

当初、米国の判例は要部説であったが、その後独立説に判例変更し、現在では、米国特許商標庁の特許審査マニュアルも独立説に基づくものとなっている。ちなみに、そのマニュアルには、「V.破線 請求に係る意匠の一部ではないが、その意匠が関係する状況を示すために必要とみなされる構造は、破線で図面において表すことができる。これには、意匠が具体化され応用された物品の一部が意匠の物品の一部とはみなされない場合を含む。In re Zehn,617 F.2d 261,204 USPQ 988(CCPA 1980)。破線による表示は例示のためだけであり、請求に係る意匠の一部またはその特定の実施例を構成しない。」(1)と記載されている。

(1)意匠権活用実態海外調査及び研究のための委員会報告書(社団法人日本デザイン保護協会、1999年3月)資料4-11)

(2006/2/10)

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